東京家庭裁判所 平成12年(少)2166号 決定 2000年6月20日
少年 M・J(昭和61.1.24生)
主文
少年を初等少年院に送致する。
理由
(非行事実)
少年は、平成12年5月13日午後3時30分ころ、東京都葛飾区○○×丁目××番×号○□エレベーター内において、エレベーターを降りようとしたA子(当時7歳)に対し、やにわに後ろから羽交い締めにするなどの暴行を加え、エレベーターに引き込んで強いてわいせつの行為をしようとしたが、同女が悲鳴を上げたことにより、同女の母親が駆けつけたために、その目的を遂げなかったものである。
(法令の適用)
刑法179条、176条
(強制わいせつ未遂の非行事実1個を認定した理由)
1 本少年については、平成12年5月26日にぐ犯保護事件が係属し、その後同年6月5日に暴行保護事件が係属したものである。ぐ犯保護事件の送致事実の要旨は、「少年は、中学2年生になってから女性の体に興味を持ち始めたが、内気な性格から女子同級生に声をかけることができないため、抵抗が少ない小学生の女子児童の体を触ろうと企て、平成11年12月中旬ころから平成12年5月13日までの間に、小学生の女子児童を追尾し、高層住宅のエレベーター内や路上等において、女子児童を羽交い締めにするなどの暴行を加えたりした上、その臀部を触ったり接吻するなどのわいせつな行為をすることを前後7回(未遂及び追尾したのみで失敗したものも含む。)繰り返したものであり、少年には自己及び他人の徳性を害する行為をする性癖が認められ、このまま放置すれば、その性格に照らして、将来性犯罪を犯すおそれがある。」というものであり、暴行保護事件の送致事実は、少年が、判示非行事実のとおりの日時、場所で、判示被害者に対し、強制わいせつ目的で、後方から羽交い締めにするなどの暴行を加えたというものである。
2 上記のうち、暴行の送致事実については、一件記録及び審判の結果によれば、少年が、被害女子児童に対して、わいせつ行為をする目的で、エレベーターに引き込もうとして暴行を加えたことが認められるから、強制わいせつ未遂の事実が認められる。なお、本件については、捜査機関において、被害者の情操保護等のため告訴の上強制わいせつ未遂事件として立件することを見送ったものと推測されるが、親告罪における告訴の存在は少年審判における審判条件ではないのはいうまでもない。
また、本件ぐ犯事実については、一件記録及び審判の結果によりこれを認めることができるものの、同事実の中には、本件非行事実が含まれており、両事実に同一性が認められる上、本件ぐ犯事実において挙げられている少年の7件わいせつ行為等の事実は、いずれもほぼ同一の態様なのであり、その点本件非行事実は本件ぐ犯事実で示されている少年のぐ犯性の発露とみられることに照らせば、本件ぐ犯事実は本件非行事実に吸収されるといえるので、これを独立して認定しない。
(処遇の理由)
1 本件は、少年が幼女に対してわいせつ行為をするため、羽交い締めにするなどの暴行を加えたが、未遂に終わった強制わいせつ未遂の事案である。少年は、あらかじめ狙いをつけた被害幼女を追尾し、同女がエレベーターに乗るとこれに同乗した上で、同女がエレベーターから降りようとしたところで同女をエレベーターに引きずり戻そうとしたのであって、その手段は計画的で巧妙であり、また、被害幼女はもちろん、その親等が受けた恐怖感は計り知れない。
さらに、少年は、本件の他にも、小学生の女子児童を追尾し、高層住宅のエレベーター内や路上等において、女子児童を羽交い締めにするなどの暴行を加えたりした上、その臀部を触ったり接吻するなどのわいせつな行為をすることを6回(未遂及び幼女を追尾しただけで失敗に終わったものも含む。)行ったことを認めており、幼女に対する性非行に対する常習性が相当程度高まっていたものといえる。
2 少年の性格、行動傾向については、鑑別結果通知書によれば、無力感が強く、主体的に行動できず、活動性も低いこと、何事にも受け身的・消極的になっており、与えられたことには取り組めるものの、自分なりの考えを持って創意工夫することが苦手であること、共感性等情緒面につき未熟さが著しく、未分化であり、対人関係能力や自己を適切に表現する力が乏しいこと、そのような自分に対し自己嫌悪に陥ったり、不快な感情を抑え込むなどして、ストレスをためやすいこと等を指摘することができる。また、本件非行及びこれに先立つ同種行為に鑑みれば、その衝動統制能力の欠如も明らかである。
また、少年は、中学校入学後からクラスメイトからいじめに遭うようになり、拒食症になるなどしたが、そのときは、保護者や学校への相談、カウンセリング等により、なんとか落ち着いた。ところが、中学2年時の平成11年11月下旬ころから、再びいじめを継続して受けるようになり、しかも、少年において、このいじめがそれまでのいじめへの対応に対する仕返しという意味合いもあると意識していたことから、誰にも相談することができず、少年の上記のとおりの性格もあいまってストレスを高めていたものと推測される。
少年は、再度のいじめが始まった後の同年12月中旬に、エレベーターに乗った小学生の女子児童を押さえ付けるなどした上、同女に接吻したりその臀部を触るなどの非行を敢行したのを皮切りに、本件を含めて7回にわたり、同種の幼女へのわいせつ行為を敢行しているものであるが、上記少年の性格と本件非行に至る経緯を併せ鑑みると、本件は少年の現実生活での不満の噴出という意味合いでなされたものと認められる。しかし、少年自身の性的発達が全く進んでいなかったとみられることに照らせば、上記不満の噴出が性非行という形で顕在化した原因については、鑑別結果通知書で指摘するほどには明確とはいえない。ただ、少年のため込んだストレスの顕在化の仕方が、前回のような心身の不調という形ではなく、他者への加害、しかも幼女へのわいせつ行為であったことの問題性は大きく、少年自身が調査・審判の過程を通じても、本件非行の動機について明確な認識を有するに至らなかったことを供せ考えれば、少年が今後同様の性非行を繰り返しまたはさらに悪質化するおそれは十分にあるといわねばならない。
そして、保護者の監護能力自体には問題がなく、その監護意欲も高いとは認められるが、少年の主体性の欠如、受身的な性格等の問題点は、多分に幼少のころからの実母の過保護・過千渉により形作られたものといえる点を看過することができない。
3 以上のとおりの本件非行の罪質、少年の性格上の問題点、それに起因する再非行のおそれの高さ等に照らせば、少年において本件を除けば生活上の問題点が見られないこと、保護者の監護力は期待できるものであること等を考慮しても、少年を在宅処遇に付するのは困難といわざるを得ず、少年院において系統的な教育を施すことにより、その情緒面の発達を促し、自主性、自律性、対人能力及び社会適応力等を養うのが相当である。なお、上記のとおりの少年の性格上の問題性に照らせば、矯正教育を施すに当たっては、カウンセリング等の個別の対応、治療的な処遇を施していくことが望ましいと思われる。
よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項により少年を初等少年院に送致することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 柴田雅司)